入ってくる報告は軒並み敗戦の報告ばかりで、勝ち戦の
入ってくる報告は軒並み敗戦の報告ばかりで、勝ち戦の話は皆無であったのである。長宗我部方面の戦線は、連敗に次ぐ連敗で、兵の大半が死亡してしまい投降する兵もあとを絶たない。唯一、筆頭家老
億嘉國際ある土居宗珊が、敗残兵をまとめあげて前線の城に篭(こも)り、長宗我部家の本隊を抑えてはいるが、既に、長宗我部の放った別働隊が苛烈な進撃で次々と一条家の城を落とし、この中村御所を攻撃中だったのである。攻めたはずが、痛烈なカウンターをもらった状態となり、攻めるどころか領土の防衛すらままならない状態で、主君一条兼定の生死すら不明な状況であった。また、西園寺家との戦線については、土居隆行率いる軍勢が、三間でおこなわれた初戦で西園寺家に惨敗を喫した上、逃げ延びられた者すらおらず、将と呼べる人物は皆戦死したという情報が入っていたのである。「この中村御所の防衛を任されていた守備兵も、もう殆ど生きておらぬらしい…。加久見左衛門様が城で戦っておるらしいが…いつまでもつものかのぅ…。」「じゃが、あの土居家に来た大友家のお姫様…。枝里姫様と言うたか?あのお方が戦える町民を率いて奮戦しておるというではないか。」「何を言う。所詮女子と寄せ集めの烏合の衆じゃ。しかも、その衆に正規のお侍さん方が助けられているようでは、一条もこれで終わりじゃ…。」この老人達の話どおり、現在、中村御所では、場外で迎え撃ち、惨敗した正規の守備兵達に替わり、隆行の妻である土居枝里が町民や女中を奮起させ、必死に城を守っている状態であったのである。この敗色濃厚な一条家の領民に、もはや希望を託せる所は、この枝里率いる一団しか無く、戦を知る退役軍人達にとっては勝機が全く見えない状態となっていた。