2023年12月11日
「……これから下坂するとなれば
「……これから下坂するとなれば、沖田先生はどうなりましょう。先程から外は雨が打ち付けております。行程を耐えられるかどうか…………」
ただでさえ身に滲みるような冬の寒さだ。油小路の一件から寝込みがちの沖田に、雨の中の行軍は難しいだろう。
誰もがそれは厳しいと心の中で思っていた。しかし、あれほど本人が戦場で死ぬことを渇望しているのだ。留守を言い渡すのは残酷だろう。
「…………総司は置いていく。お前さんの言う通り、あれでは耐えられん。俺が言いに行って来る」
だが土方は迷うこと無く言い捨てると立ち上がった。
それに追従する形で、https://johnsmith786.mystrikingly.com/blog/cd88532e455 https://carinacyril786.livedoor.blog/archives/988514.html https://note.com/carinacyril786/n/n21953e0cf5ce?sub_rt=share_pb 近藤と桜司郎も部屋を後にする。「総司、入るぞ」
土方を筆頭に声を掛け、返事を待たずに部屋へ入る。そこには鎖の着込みを付けた沖田が居た。体格に合わせて仕立てた筈のそれは、頼りないほどに浮いて見える。
随分と痩せたのだと一目で分かった。
「……やあ、お揃いで…………」
少し前までは軽々と着回して飛び回っていたのだが、今は酷く重そうにしている。にこりと笑って立ち上がろうとするが、その顔色は悪く、足取りは覚束無かった。
「総司、何をしている」
「何をって…………、戦に行くのでしょう?その支度ですよ。もそっと早く刀を研ぎに出せば良かったな……」
何処かから聞き付けたのだろう。沖田は当たり前に出陣する気でいた。
刀を取ろうと屈んだ拍子に、畳の縁に足を取られて前のめりにく。
「総司ッ」
その腕を瞬発的に飛び出した近藤が引いた。握った手首の細さに、思わず眉を寄せてしまう。
まるで沖田が内弟子として試衛館に来た時のようなそれだった。貧乏を極めていたせいで、食事すら満足に取れず、筋肉も脂肪も無かった頃のことだ。
「す、すみません。うっかりしていて……」
それを見ていた土方は見えぬところで拳を握る。そして一歩踏み出すと、口を開いた。
「──お前は留守番だ。その身体でこの雨の中を連れて行く訳にはいかない」
戸の外は止むことを知らない雨が激しく打ち付けている。風もあり、それに晒されるだけで体力を奪われることが容易に想像できた。
それが分からぬ沖田では無い。自分の身体のことなのだから、自分が一番知っているのだ。
しかし、
「嫌です。私も着いて行きます……」
小さな声で拒否をする。
「これはただの御用改めどころじゃねえ。戦だ。もしお前さんが倒れたとしても、誰も救い出してやれねえんだ」
それを諌めるように、けれども淡々と土方が言葉を続けた。
「分かっています!……分かっています。誰も守って欲しいなどと思っちゃいません。自分の身は自分で守ります」
「それでも駄目だ。…………隊の士気に関わる」
その言葉に、沖田は一歩後ずさる。
誰よりも病を憎んだのは己だ。それでも仕方ないと、は何かの役に立てると何度も言い聞かせて此処まで来た。
そのが今だというのに、命の使い所さえ選ぶことが出来ない現実が目の前に立ちはだかる。
思わず涙が零れそうになり、視線を下へ落とした。──困らせるな。聞き分けの無いのように駄々をこねて困らせてはいけない。
沖田は己へ言い聞かせると、言いたい言葉を全て腹の奥へ飲み込んだ。そして無理矢理口角を上げてから顔を上げる。
「…………分かり、ました。馬鹿なことを申して済みません。大人しく留守を守ります」
あまりにそれが痛々しくて、土方と桜司郎は視線を落とした。
だが、近藤だけは真っ直ぐに見据える。そして近付くとその頭をポンポンと撫でた。
「総司、この戦は恐らく長期戦だ。必ずやお前の、沖田総司の力が必要になる。だから……焦らずにゆっくり治してから来てくれ」
ただでさえ身に滲みるような冬の寒さだ。油小路の一件から寝込みがちの沖田に、雨の中の行軍は難しいだろう。
誰もがそれは厳しいと心の中で思っていた。しかし、あれほど本人が戦場で死ぬことを渇望しているのだ。留守を言い渡すのは残酷だろう。
「…………総司は置いていく。お前さんの言う通り、あれでは耐えられん。俺が言いに行って来る」
だが土方は迷うこと無く言い捨てると立ち上がった。
それに追従する形で、https://johnsmith786.mystrikingly.com/blog/cd88532e455 https://carinacyril786.livedoor.blog/archives/988514.html https://note.com/carinacyril786/n/n21953e0cf5ce?sub_rt=share_pb 近藤と桜司郎も部屋を後にする。「総司、入るぞ」
土方を筆頭に声を掛け、返事を待たずに部屋へ入る。そこには鎖の着込みを付けた沖田が居た。体格に合わせて仕立てた筈のそれは、頼りないほどに浮いて見える。
随分と痩せたのだと一目で分かった。
「……やあ、お揃いで…………」
少し前までは軽々と着回して飛び回っていたのだが、今は酷く重そうにしている。にこりと笑って立ち上がろうとするが、その顔色は悪く、足取りは覚束無かった。
「総司、何をしている」
「何をって…………、戦に行くのでしょう?その支度ですよ。もそっと早く刀を研ぎに出せば良かったな……」
何処かから聞き付けたのだろう。沖田は当たり前に出陣する気でいた。
刀を取ろうと屈んだ拍子に、畳の縁に足を取られて前のめりにく。
「総司ッ」
その腕を瞬発的に飛び出した近藤が引いた。握った手首の細さに、思わず眉を寄せてしまう。
まるで沖田が内弟子として試衛館に来た時のようなそれだった。貧乏を極めていたせいで、食事すら満足に取れず、筋肉も脂肪も無かった頃のことだ。
「す、すみません。うっかりしていて……」
それを見ていた土方は見えぬところで拳を握る。そして一歩踏み出すと、口を開いた。
「──お前は留守番だ。その身体でこの雨の中を連れて行く訳にはいかない」
戸の外は止むことを知らない雨が激しく打ち付けている。風もあり、それに晒されるだけで体力を奪われることが容易に想像できた。
それが分からぬ沖田では無い。自分の身体のことなのだから、自分が一番知っているのだ。
しかし、
「嫌です。私も着いて行きます……」
小さな声で拒否をする。
「これはただの御用改めどころじゃねえ。戦だ。もしお前さんが倒れたとしても、誰も救い出してやれねえんだ」
それを諌めるように、けれども淡々と土方が言葉を続けた。
「分かっています!……分かっています。誰も守って欲しいなどと思っちゃいません。自分の身は自分で守ります」
「それでも駄目だ。…………隊の士気に関わる」
その言葉に、沖田は一歩後ずさる。
誰よりも病を憎んだのは己だ。それでも仕方ないと、は何かの役に立てると何度も言い聞かせて此処まで来た。
そのが今だというのに、命の使い所さえ選ぶことが出来ない現実が目の前に立ちはだかる。
思わず涙が零れそうになり、視線を下へ落とした。──困らせるな。聞き分けの無いのように駄々をこねて困らせてはいけない。
沖田は己へ言い聞かせると、言いたい言葉を全て腹の奥へ飲み込んだ。そして無理矢理口角を上げてから顔を上げる。
「…………分かり、ました。馬鹿なことを申して済みません。大人しく留守を守ります」
あまりにそれが痛々しくて、土方と桜司郎は視線を落とした。
だが、近藤だけは真っ直ぐに見据える。そして近付くとその頭をポンポンと撫でた。
「総司、この戦は恐らく長期戦だ。必ずやお前の、沖田総司の力が必要になる。だから……焦らずにゆっくり治してから来てくれ」
Posted by James Bond at 21:50│Comments(0)